環境中の化学物質に過敏に反応して多臓器の症状を呈し、重症化すると仕事や日常生活にも支障が出
てくる疾患です。本邦では少なくとも70万~100万人程度の患者がいると推定されています。2009年10月に保険病名収載された疾患ですが、国としての対策は未だ十分ではありません。
これらの症状が化学物質曝露の種類や程度によって、種々の組み合わせで出現し、曝露からの回避により改善または消失しますが、再度曝露があると症状が繰り返して起こり慢性化してくるとなかなか改善しなくなってきます。
【化学物質過敏症に対する米国のコンセンサス(1999年)】
1.慢性の疾患である
2.症状の再現性がある
3.微量の化学物質に反応する
4.関連性のない多種類の化学物質に反応する
5.原因物質の除去で改善あるいは、治癒する
6.症状が多臓器にまたがる
【化学物質過敏症の診断】
●詳細な問診が重要
発症のきっかけや原因と考えられること、症状の発現の仕方、住宅環境、職場環境などの環境要因、再現性や原因と考えられるものからの回避で症状が改善あるいは消失するか(重症になると改善が困難になる)、アレルギー歴その他の病歴
●QEESI問診票
●客観的指標(確立されている検査項目は限られています)
・静脈血酸素分圧の高値
・化学物質負荷試験(現在は殆ど実施が困難なのが現状)
・神経眼科的異常所見
・重心計の異常所見
【QEESIとは】
米国テキサス大学のMillerらが、化学物質過敏症の診断のために世界共通に使用される問診票として開発(1999年)
日本語版として石川、宮田翻訳による問診票(1999年)が、現在化学物質過敏症、シックハウス症候群を扱う医療機関での診療時や住宅業者などで患者の可能性のある人のスクリーニング目的で使用されています。
【化学物質過敏症/シックハウス症候群の治療や予防について】
●化学物質過敏症の治療
・環境改善
・活性炭マスクの装着
・急性症状時や慢性的に症状が持続する場合に酸素吸入は有効
・タチオンの点滴(急性症状時)や内服(慢性症状に対して)
・漢方薬(麦門冬湯など)
・ビタミン類(ビタミンB6、B12、Cなど)
・トリプタン系薬剤
・運動、入浴
●シックハウス症候群を防ぐために
・換気をする
新築後の室内の化学物質の濃度は基準値まで下がるのは3年位かかる。
積極的に換気をして、室内の汚染された空気を外に出す。
・家具も住まいと同様に選ぶ
接着剤をたくさん使った合板や、ビニール加工のものは化学物質を多量に揮発させる。
新しい家具も、家と同様によく空気にさらす。
・住まいの中の化学物質を増やさない。
芳香剤や殺虫剤、防虫剤も化学物質を発散させ、中毒やアレルギーの原因になることもある。できるだけ住まいの化学物質は少なくなるようにする。
・リフォームなどは人任せにしない。
建て替えやリフォームの際には、施行業者に建材などを確かめる。
壁紙や畳などの室内の素材は、防虫加工のものは避ける。
・周囲の環境も視野にいれる。
●化学物質過敏症患者の病態生理~最近の知見
・中心窩脈絡膜血流が有意に低値
・ホルムアルデヒド負荷にて特異的IgE産生が促進される
(人:ダニ抗原、マウス:卵白アルブミン)
・嗅覚過敏
・臭い、化学物質負荷により脳血流に異常(機能的MRI、PET、SPECT、NIROなど)
・末梢静脈血酸素分圧がしばしば高値を示す
⇒組織低酸素状態・組織酸素利用障害、毛細血管レベルでの動静脈シャントなどが考えられている
・化学物質負荷によりリンパ球機能に影響
・カプサイシンによる咳感受性亢進
・解毒作用などに関わる遺伝子異常
国立病院機構盛岡病院
副院長 水城 まさみ
(呼吸器内科・アレルギー科)