第25回環境科学討論会(2016年新潟)
【はじめに】
身近な材料が年々機能を高めるに伴って、工事、使用、廃棄の各段階で発生する化合物種類も変化し、従来注目されなかった空気汚染物質が各地で住民の健康に影響してきた。汚染の種類と発生の様子が自動車排気ガスとかシックハウス規制物質のように比較的定常的なものと違って、発生が不規則に変動する汚染に変わってきたので、サンプリング時問が長くサンブリング回数が短い従来の精密分析法では被害実態を把握できない可能性があった。また、急性毒性が強いものには、生体との化学反応性が高いことから想像できるようにサンプリング処理中に化学変化しやすいので現場での安定化合物への変換処理が必要であり、ごく薄い濃度でも有害なためなどでサンプリングし薙い化合物もある。さらにまた、有益性を特徴づける官能基が共通のものの合計官能基濃度が問題であり、同系の化合物種類が多数の堀合には、個々の化合物濃度が低くて検出限界以下でも空気が有害な楊合がある。
簡単に実施できるその場分析器を用いて速続記録することで、上述の湯合が少なくない近年の環境汚染を連続モニターして、健康被害との関連が付きやすい観察結果を得たので報告する。
【方法】
複数の住民が同様な時期に空気汚染で苦痛を感じるいろいろな場所があったのでそれらの場所で(建築現場近隣の民家室内、昼根補修塗装中の民家の室内、破砕選別して焼却する産廃処理施設周辺の民家2か所、リサイクル施設周辺の民家3カ所、廃棄ゴムタイヤ等産廃集積所隣家、化学乾電池工場隣家、柔軟剤で苦痛の住宅団地2か所など)、簡易クロマトグラフ(JMS社製VOCモニター1000)により1時間おきに10分問10リットルのサンプリングで数日問の速続測定と送り出される試薬テープのユ色による毒性ガス分析器(ハネウェル社製ケムキーTLD)で各時点に適時の露出時問で15分おきの連続測定で記録した。
簡易クロマトグラフは各分析終了後に加熱・バージ・冷却でクリーニングされ、カラム80℃に保たれている。0から3500秒の保持時間の間に通常の大気汚染物質のトルエン、 エチルベンゼン、キシレン、スチレンがもっともよく分析できるような設計になっていて、その4化合物の濃度は標準試料でキャリプレーションされていて1µg/m3まで表示されるようになっている。キャリヤーガスは完内空気を純化装置を通して使用している。
ケムキーでは分析対象ごとに試薬テープと露出時問を変えるが、この研究では住民が苦痛を自覚する製品から推定して主にイソシアネート検査テープを使い、濃度表示される適正露出時問より約4倍長い露出時問で測定して低濃度までの検出を計った。適正露出時間であればデジタル表示できる最低濃度は2µg/m3である(作業環境管理濃度は5µg/m3) 。場所によっては、 発生が疑われるシアン化水素、芳香族アミン、ヒドラジン、ホスゲンをもそれぞれの試薬テープに交換して調べた。測定器を使用し難い場所ではバッヂ式分析機を使用してイソシアネートとヒドラジンを調ぺた。
【結果と考察】
測定例の一つとしてパネル式新築現場から約80m• 8軒離れて見えない地点の住宅内で現場とは反対方向の閉切った室内での記録結果の一部を図に示す。
苦痛の時はクロマトグラフで種類も濃度も変動が著しく、低濃度のイソシアネートが検出された。クロマトグラフは作業中は種類および濃度の変動が著しく、濃度は作業中のみならず日が喜れて作業終了しても高かった。特に咳こんで喉が痛み、声がかすれる時問は、1時問足らずと短時間であってもイソシアネートが検出された時間に一致した。イソシアネートは、朝8時前後に始まり、昼を挟んで減少し、午後再び強く検出されて、1 7時過ぎには減少して夜間は検出されなかった。エ事の後の段階では短時問にうっすらと検出されるだけになったが、最後まで完全になくなることはなかった。ただし休日には完全になかった。イソシアネートが検出される時にクロマトグラフでの合計濃度が上昇することはなく、TVOCは重大な汚染の指標とはならなかった。
2つの廃棄物処理施設周辺では、同じようにほぼ切れ目なくイソシアネートが検出され、シアン化水素(ニトリルにも反応するかと思われる)と ホスゲンも検出された。
【結論】
クロマトグラフが示すように種類と濃度の短時問変動が著しい汚染の時には、長時問のサンプリングが必要な精密分析による希薄化合物の検出が困難な場合でもその場連続測定では検出の可能性がある。また、毒性官能基が共通の異なったごく低濃度の多種類や重合分子を含む場合の分析にも合計の毒性濃度に対応して検出する可能性があるので、健康被害に対応する情報として、その場連続分析は精密分析で捉えられない場合の汚染状況を把握し得るので、精密性が欠けていても別な意味で有用と思われる。
【参考文献】
EPA: TDI and Related Compounds Action plan RIN2070-ZA14, 2011 April
Continuous Observation of Environmental VOCs.
Shigeyuki Tomita, Yoshiyuki Uchida, Yukio Yanagisawa, Akiko Kato, Mayumi Saito, Ryoiti Saito, Yuko Tsuya, Nobuyasu Morigami.
Toxic Volatile Organic Compounds In The Air Research Association
材料機能の発展→含有する新合成有機化合物
製造・利用・廃棄リサイクル方法の変化→VOCs種類の変化
人体への影響機序の変化、空気汚染発生と伝播状況の変動、対応する分析方法の選択・利用、簡易分析器のその場連続測定の利用
3種類の連続観察機器VOCモニター、呈色試験紙を用いて有毒化学物質をモニターするケムキー、セイフエアのバッジ式比色試験紙を使用した。体調観察の指標として連続式血中酸素濃度、心拍数、血圧モニターを用いた。
VOCモニターは携帯型の簡易クロマトグラム。VOCを吸着させ、吸着菅を加熱させて精製空気でVOCをパージしてガスクロ分析を行う構造のものである。
存在している汚染物質全体の様子を見る。(トルエン/キシレン/エチルベンゼン/スチレンモノマー /パラジクロロベンゼン/TVOC(総揮発性有機化合物)
比較が基本。標準試料で種類と濃度をチェック。やや取扱いが難しい。複雑な操作を自動化しているのでごく精密な機械である。
Honeywell社の比色式毒性気体分析器のケムキーTLDはこのようなものである。
日常生活でよく見かけるウレタン製品(自動車のシートパッド、マットレス、シューズ等)の原料であるイソシアネート*1系 の化学物質(TDI: トルエ ン・ジイソシアネート、MDI: ジフェニルメタン・ジイソシアネート、HDI:ヘキサメチレン・ジイソシアネート等)を使用する工場の製造現場で、作業環境の常時モニターとして使用され ています。同社の高感度イソシアネート検知器(2~60ppb)は、ガスクロマトグラフィー等による分析機 器に比べて安価で、常時モニターが実現できる。
ケムキーの作動機作は、呈色試薬を塗布した化学テープに測定ガスを通過させ、対象ガスと反応してできた呈色スポットの濃度を光電計測してガス濃度を出す。
【測定例1】
保守のため屋根塗り替えした日のその住宅室内のVOCモニターのクロマトグラフです。時間変動が大きく、工事が開始されると高くなり、終了すると下がっていることがわかります。
前のクロマトと同じ工事を行った日を左端にした室内のTVOC濃度の約6日間の記録。屋根塗装中以外には、室内はほぼ一定に保たれている。塗装工事の行われた日には、作業中だけ閉切った室内も高濃度になる。外部から侵入した汚染は、約300ミューμg/m3だけの濃度を増加させた。
ケムキーを用いて毒性ガスをモニターした。屋根塗装中の6時間だけイソシアネートが検出されている。その前日の16時ごろに準備作業中でうっすらとイソシアネートが検出。塗装の翌日の12時ごろにまた少し検出された。TVOCが、いちど上昇している時間に対応している。
【測定例2】
同じ住宅で昨年夏、80m離れて他の家の陰になる地点に住宅新築が始まった。基礎工事の日に、それとは知らず窓を開けて昼寝していたので激しい喘息のような発作で病院に運ばれた。工事がだいぶ進んでからの外装や内装の工程の頃らしい。TVOC濃度と主な成分比率である。
さっきの原因不明の汚染に比べてその他の成分が少なく、有機溶媒成分が多い。祭日は少なく、作業日が高濃度である。夜間の気温低下による濃度増加の他に、早朝の作業開始での増加、昼休みでの減少、夕方の増加と夜間の残留が認めせれる。低濃度の時と最高濃度では10倍以上の違いがあった。
【測定例2】
同じ住宅で昨年夏、80m離れて他の家の陰になる地点に住宅新築が始まった。基礎工事の日に、それとは知らず窓を開けて昼寝していたので激しい喘息のような発作で病院に運ばれた。工事がだいぶ進んでからの外装や内装の工程の頃らしい。TVOC濃度と主な成分比率である。
さっきの原因不明の汚染に比べてその他の成分が少なく、有機溶媒成分が多い。祭日は少なく、作業日が高濃度である。夜間の気温低下による濃度増加の他に、早朝の作業開始での増加、昼休みでの減少、夕方の増加と夜間の残留が認めせれる。低濃度の時と最高濃度では10倍以上の違いがあった。
作業前の早朝と昼休みにはVOCが少なく、作業時間にはVOCが増加した。特にトルエンとエチルベンゼン濃度が高かった。
ケムキーでのイソシアネートの分析テープには、作業時間早朝と夕方終了時間から後の夜間にかけてだけ飛来し、昼前後に少なくて、夜間にないことが記録されていた。
工事が大体終了したころでも、作業時間内に、短時間だけうっすらと飛来することもあった。
【測定例3】
周辺住民の健康被害が問題になった産廃処理場で、自治体による精密分析が実施され、そのサンプリング時間を区別した精密サンプリング場所でのTVOCの連続記録である。サンプリングした日にも、その時間になると急に濃度が低下したり、サンプリング後に急に濃度が増加したりして不自然であった。サンプリングした時のTVOCは、通常作業日の最高濃度の20分の1であった。
サンプリングの日のケムキーのイソシアネート分析記録テープである。朝9時に分析作業者が現場に到着した時まではうっすらとイソシアネートが検出されていた。サンプリング時間中にはイソシアネートは検出されずプサンプリング終了後にしばらくしてから明瞭に検出され始めた。TVOC上下と平行な時間依存性の変化をしていた。
クロマトグラフで見ると、通常の日に比べて検出できた化合物ピークも少なかった。
【測定例4】
田園地帯に囲まれた住宅地での計測例。今年のゴールデンウィーク。100m程の所の田んぼに沿っているつくば市の住宅地内の家。室外、窓開けで重い体調異変。室内でも次第に体調悪化。クロマトグラフでのTVOC変動と成分。自動車排気ガスによる通常の大気汚染の主成分であるベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンの合計濃度に比べて、「その他」化合物の割合が大きい。
晴雨の影響はない。昼夜の変動も不規則。深夜2時~4時頃から短時間希薄なことが多い。GWが終えてから低下の傾向。
ケムキーでのイソシアネート分析記録。15分ごとに●1つ。●4つで一時間の記録。測定を始めた夕方に濃かった。その後一時薄れた。1時間ほどごく薄い時があった。濃淡はあるが汚染が続く。
VOCモニターでのクロマトグラムを見てみると、イソシアネートの濃度の高いときにVOCのチャートは低く、逆にイソシアネートが低いときにVOCが多くなっていた。
同じようにイソシアネートが高く検出され体調が酷く悪い日のVOCモニターのクロマトグラムはピークが低くなっている。あくまでも一つの仮説であるが、イソシアネートを含むマイクロセルの飛散によりVOCの吸着、減少という事態が起きている可能性がある。
建築現場などから飛散するイソシアネートは作業時間中のみ高濃度に検出されるが作業が終了すると徐々に低下する。しかし、田園地帯で観測されて発生源が明確でないイソシアネート汚染は高濃度で継続され、ゴールデンウィークが過ぎてから徐々に減少していった。
農薬の有効成分の徐放効果を狙ったウレタンなどのイソシアネートを原料としてマイクロセルの飛散が起きているのでないかと推定している。