5.包接材使用日用品からイソシアネートの検出

第25回環境科学討論会(2016年新潟)

【はじめに】

2つの住宅団地で近隣からの柔軟剤の香りで苦痛を感じる過敏な住民があり、毒性ガス分析器で調べたところどちらの空気中からもイソシアネートが検出された。数種の柔軟剤と消臭剤からもイソシアネートが検出された。症状は、即時性と遅延性の両極性アレルギーを示し、即時的には、咳と喉の症状、涙目、頭重・だるさ・朦朧感など、皮膚・粘膜と中枢神経の症状であり、数時間後から長く続くのは、胸の痛み、疲労感、悪寒、多尿、手のしびれや指先の傷み、見えにくさ、などであった。合成香料のアレルギーと診断されたものもいた。 柔軟剤の香りは著しく残香性で、室内にいただけで付着した香りを移動した家にも運ぶ。香りを付着した人が移動した後でも香り続け、しばらくのあいだ香り自体は消えても即時的発症は生じる。

 

文献資料で調べたところ、症状は世界的に重大問題になっているイソシアネートに一致する。香り成分を長持ちさせるために繊維に強固に付着して着用中に徐々に放出させる目的で徐放剤という合成樹脂成分で加工してあることが分かった。種々なタイプの徐放剤にはイソシアネートを使用すると性能が良いことも知られている1,2)。シクロデキストリンという自然由来の無害な徐放剤(包接材)をイソシアネーやモノクロロトリアジンで架橋したポリマーとして使う新技術も普及していることが分かり3)、またそれらの包接技術の用途が日用品や医用品にも急速に拡大していて4)、安全性は皮膚バッチテストでしか確認されていないことも分かった。実際に消臭加工サニタリー繊維製品からも同様症状が誘起された。欧米およびアジア各国では、製品に含まれるイソシアネートの規制が厳しい。アレルギー患者の急増と関連も考えられる。

 

【方法】

試薬テープ呈色による毒性気体分析器(ハネウェル社製・ケムキーTLD)により、イソシアネート、アミン、シアン化水素、ヒドラジンを15分おきに連続的に調べた。この分析器は欧米で古くから定評がありNIOSHでも紹介しているものである。pptレベルの環境濃度が問題なり、多種類で多様な形態の官能基合計が健康影響するので日本では存在の確認が困難な全イソシアネートの分析は、ケムキーのみが検出可能である。並行して簡易クロマトグラム分析器(JSM社製VOC1000)を使用して揮発性有機化合物全体の状況を1時間おきに連続測定した(サンプリング時間10分間、10L)。

 

測定空気は、

1)室内に置いた上記2種分析器にパイプで導入した外気

2)柔軟剤など発生源液体を精製水で希釈し沪紙にしみこませガラス瓶中で採取した揮発ガス

 

の2種類であり、連続測定では気象および測定者の体調も記録した。

4)発生源の資料としては、メーカーと商品名が異なる6種の柔軟剤、香料入り洗剤、柔軟剤入り洗剤、スプレー式消臭剤、合計9種の市販品であった。

 

【結果と考察】

ケムキーによるアミンとヒドラジンは不検出であったが、シアン化水素とイソシアネートは多くの時間検出され、特に午前と夕方に多く、夜間は検出されない傾向があったが、日中高濃度の日には夜間も消えなかった。雨が降っても数時間は濃度を保った後に薄くなった。TVOCの変動は著しかったが、イソシアネートはTVOCの増減と関係ない増減であり、滞留の影響、または自動車排気ガスによるTVOCとは起源が異なる洗濯作業によるものと思われた。市販の柔軟剤6種類中の5種類からはイソシアネートが検出されたが、洗剤では香料入りでは不検出、柔軟剤では検出であった。

 

複数の被害者は、古いタイプの(残香性でない)トイレ消臭剤、香水やオーデコロンを大量に使っても、強い匂いにも拘らず体調変化しなかった。

【結論】

柔軟剤の残効性の強い含香の包接材ポリマーにイソシアネート等残留ポリマーまたは分解ポリマーが含まれているため地域に滞留して健康被害が増えていると考えられた。消臭剤、繊維加工品、日用品等に同様な包接材用途が拡大しているが2,3,4)、イソシアネート以外の化合物への代替えがのぞまれる。

 

【参考文献】

1.山本孝,他10名;包接能化合物固定化技術の開発とその加工プロセスの実用化,石川県工業試験場研究報告http://www.irii.jp/randd/theme/h19/pdf/study08.pdf

2. ゲル状芳香剤組成物;特開2001-163750(P2001-163750A);小川香料株式会社,東邦化学工業株式会社

3.徐放技術と用途展開,国会図書館

4.シクロデキストリン:CMC出版,シクロデキストリンの応用技術,2008.

5.リーバイ・ストラウスRSL


Isocyanate Detection from Daily necessities Containing 

Shigeyuki Tomita, Yoshiyuki Uchida, Manabu Tomita, Yukio Yanagisawa, Keiko Ishigaki, Reiko Mizuno, Yuko Tuya, Nobuyasu Morigami.  


 包接材使用日用品からイソシアネートの検出。

 

 近年、日用繊維製品に付加価値を高めるための香料や農薬その他の成分の効果を長持ちさせるために、それら成分をマイクロカプセルその他の包接材に包んだ製品が開発され、普及した集合住宅地などではそれによる体調不良の訴えが生じている。室内と環境調査でイソシアネートが検出され、包接材に含まれるポリマー成分による可能性が大きいので報告する。

 被害を訴えるものの症状はこのようであった。家族内でも暴露初期には無症状で、ある時期またはあるイベントを境に発症する者も多い。アレルギーと思われ、即時的反応が現れるとともに、遅発性または持続性の症状もある。産業医の診断で、人工香料アレルギー、専門医の診断で中枢神経障害、呼吸器アレルギーであった。

 柔軟剤の匂いによる健康被害の訴えを簡易分析と文献資料の両面から調査した結果、実際の健康被害原因物質は、ニトリルなどの合成香料の影響もあろうが、香料等の徐放剤・包接材に含まれているかその分解によって生じたイソシアネートの可能性があると考えられた。

 異なった住宅団地に住む住民から相談を受けて、室内と環境を2種の簡易連続分析器で実地調査し、症状を聞き取った。分析器はJMS社・携帯型簡易クロマトグラフVOC1000である。

 クロマトグラフにより自動的に示されたTVOCと、普通大気汚染のトルエンなど主要4成分濃度である。トルエンなどの割合が多くその他の化合物が少ない時と、ほとんど全部その他の成分が占める時とがあった。 

 今年の2月、1週間にわたり室外の同一地点からVOCモニターとケムキーで大気を採取して分析した結果です。VOC濃度測定値とイソシアネート濃度が高感度に記録されたテープの変色度合いを5段階で評価しグラフ化しました。同時にその時感じた臭い、天候・風向き、体で感じた症状を時系列で表示しています。(この時のテープがシート11です)。

 

 これを見ると、VOCの値は時間と共に激しく変動していますが、イソシアネートはゆっくりとしか減衰せず、ほとんど途絶える事無く大気を汚染していることが分かります。イソシアネートが消滅しにくい現象については更なる検討が必要です。

 ケムキーのシアン化水素検出テープで調べると、室内空気にはないが、室外ではうっすらと存在していることが記録されていた。有機シアン化物がさわやかな香りで柔軟剤などの香料に適しているという特許も出ているので、それらが関連しているかもしれない。

 イソシアネートテープでも同様に、室内空気にはないが、室外ではうっすらと存在していることが記録されていた。

 シート8のイソシアネートグラフの元になるテープです。この様にほとんど途切れる事無くイソシアネートが検出されています。

 約50km離れた別の市でも、近隣から吹き寄せられる柔軟剤の匂いが強く室内にも入り込み、体調が悪化して長期入院した、退院したが苦しくてたまらない、という訴えで、匂いを嗅いでほしいというので調べに行きました。家の外でも確かに臭いましたが、その時には耐えられないほどの匂いではありませんでした。前の例ではイソシアネートは室内で検出されることはほとんどなかったのですが、ここでは室内が確かに苦しい空気で、しかも明白にイソシアネートが検出されました。玄関口の外の空気では薄くなりましたが自家用車中では室内と同じく検出されました。20kmほど離れた団地に帰り着くと、そこでは30mほど先でエクステリアの修理工事をしていたのでごくわずか検出されましたが室内では検出されませんでした。

 ゴールデンウィークの直前から土浦市の住宅団地で今までになく高濃度のイソシアネートが検出され続けています。一時は分析器を疑ってみましたが、クロマトグラフ分析と見較べてみると、一般VOC汚染は極めて清浄で試験紙での干渉はないと思われました。さらによく見ると、イソシアネートが特に多い日中にはVOCは少なく、イソシアネートが低下する真夜中の短い時間にはVOCが増加しています。また、柔軟剤汚染地区のクロマトグラフで現れたような、柔軟剤と共通の特徴的なある大きなピークが現れません。(クロマトグラフはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンの他はごくわずか。)死を思わせる苦しさ、朦朧となる意識と歩行不能の脱力感、胸の締付けるような感じ・痛み、涙がにじむ、鼻が出る、声が出なくなる、少し遅れてヒーヒーいう咳こみ、気管かららしい粘液の嘔吐等。比色テープ簡易分析器が示す強毒性の化合物、揮発性の範囲にはないかごく薄い強毒性物質の飛来が明らかです。

 柔軟剤の匂いで苦しいという被害例がその他にもあるのですが、合成香料はだいぶ前からたくさん使われていて、整髪料のトルエン誘導体やアルデヒド類で苦しいという人などもいましたが、最近の匂いで健康悪化して受診した話ほどには重症でなかったようです。実際に被害者に香水やオーデコロンを吹き付けてみても影響ないですし、昔のトイレ消臭剤の強烈なにおいの大瓶でも影響ないのです。

 

 最近の匂いに関連して調べてみると、長く効果があるように揮発消失し難く包み込む徐放技術を応用していることが分かりました。徐放技術には色々な方式があるのですが、マイクロカプセルに包む柔軟剤香料の場合には、この写真のように繊維に強固に付着して、着用時に徐々に破けるようにはイソシアネートを使うと性能が良いという資料がありました。

 シクロデキストリンは分子構造が籠型で収着による包接分子として徐放技術に利用できる。微細なポリマー材料にして種々な成分を包接して広い用途が期待されて応用が促進されている。イソシアネートで結合したシクロデキストリンイソシアネートポリマーが香料やビタミン等の包接材として繊維加工に性能が良いことも報告されている。モノクロロトリアジンで結合する物も知られている。トリアジンもイソシアネートも含窒素有機化合物で毒性が強い。 

 農薬の有効成分の徐放技術としてポリウレタンなどのマイクロカプセルを用いた製剤技術が広まっている。

 徐放剤、包接剤原料の一部にイソシアネートが有効だという文献は多数あった。その一部をここに例示した。

 

 柔軟剤の匂いによる健康被害の訴えを簡易分析と文献資料の両面から調査した結果、実際の健康被害原因物質は、ニトリルなどの合成香料の影響もあろうが、香料等の徐放剤・包接材に含まれているかその分解によって生じたイソシアネートの可能性があると考えられた。外国ではイソシアネートが衣類や雑貨その他すべての製品について含まれているかの規制、300℃で溶媒抽出して分析するまでの規制があるとの情報(8)もあった。包接技術の用途の成長に際して消費者および地域の健康影響を十分検討する必要があると思われた。