7.直読分析器によるイソシアネート環境汚染の観察

日本環境科学会口頭発表(2018年沖縄)

 NPO化学物質による大気汚染から健康を守る会ではその場で分析結果が表示され時間的変動も記録できる直読分析器で、空気汚染が考えられる場所での観察を続け、対応する医療現場や対策に役立てることを目的に調査研究をしています。最近はイソシアネートを使ってポリウレタン材料等いろいろな製品として、製品性能と快適性を求めて多種多様にイソシアネートを利用した製品が急に増えました。

 

 例えば、アスファルト、コンクリート、漆喰、外壁や屋根の塗料等の建築材料、セーターや雨具やアイロン不要の繊維製品、伸縮性デニム等の混紡、毛羽立てた木綿の起毛等の繊維製品、寝具のクッション、合成皮革などの家具、プリンタインク、接着剤などの文具、点滴チューブや防水シートなど医療材料といったようなものから、農薬の粒状・粉状・エマリジョンなどへの加工、柔軟剤・消臭剤香料の包接材など周辺の大量に消費する製品にも使われ、ランダム分解して、分子構造不特定のイソシアネートとして環境空気を汚染します。

 

 私たちは、実際に起きているイソシアネートの環境汚染の地域分布や、日時による変動、製品雰囲気をその場で分析記録して、汚染の健康影響可能性と発生源を確かめようとしています。

 イソシアネートの地域分布を移動しながら分析するには、このハネウェル社製SPM-Flex分析器を使いました。試薬テープの反応の色が濃くなっていく増え方で標準試料データによる検量線から、1秒ごとに分析濃度を表示記録します。

 

 テープを送る間隔は濃度変化を見ながら加減する様で一定しません。テープが1コマ送られるごとに濃度の読みは周期性です。各周期での最高の濃度数値をその時間の真の濃度データと考えました。

 同じくハネウェル社製の従来型分析器ケムキーといのを使い、このように15分ごとに1リットルの空気による試薬テ-プで反応の色の濃度でイソシアネートを分析記録しました。場所を固定した調査につかいました。

 

 揮発性有機化合物全体の濃度、TVOCの分析にはこの掌サイズのアトモチュウブをアンドロイドで制御し、連続データをPCに送信して記録しました。

 

 地域分布を調べ、イソシアネートとの汚染割合の相違を検討して原因を考察するのに有用でした。固定点では、ここに示しませんが簡易クロマトグラフ自動分析記録器・JSM社製VOC1000で汚染化合物全種類の半定量連続分析記録も併用しました。

 柔軟剤被害を感じるある分譲住宅地の測定例です。測定器の1と3を持って歩きながら分析するとこの範囲では汚染濃度が高いことを確かめました。風速が1m~3mと弱いこの日には、4軒先ぐらいまで柔軟剤の香りを感じます。玄関の外で測ったイソシアネートは、風が弱い時に濃くて、風が強い時に薄い傾向で、0.8ppbから1.4ppbの間でした。イソシアネート種類によって濃度表示は変わりますが、今回の発表ではすべてトルエンジイソシアネー相当として濃度表示させています。

 

 空気汚染は、一度ポリウレタンになったもののランダム分解と残留モノマーとの混合物で、オリゴマー・プレポリマーを含む多種類イソシアネートの混合物と予期され、精密分析では測りきれない合計イソシアネートを半定量分析評価しているものです。

 風が強い日の先ほどと同じ家の外での測定ですが、風の影響は著しく、TVOCもイソシアネートも風が強いと検出限界まで濃度を低下させています。

 

 しかしイソシアネートはTVOCよりも風に対する濃度変化がやや遅れています。気体の重さが、空気の5倍以上だからでしょう。

 まだ空地も多い住宅地の周辺20kmほどを、昨年の農閑期11月23日に、イソシアネート分析器1とTVOC分析器3を持って移動しながら測定・記録しました。

 

 測定範囲には、道幅では、自動車の通行が多い大通り、同じ幅で自動車がやや少なめの大通り、少ない広い通りがあります。

 

 その中に広い化学工場と小さな化学工場もあります。コインランドリーも小さな産廃ゴミ集積所もあります。学校・公演・田畑・林もあります。それらの中での濃度を、次のグラフのように較べてみました。

 地域種類ごとの平均濃度を計算し、イソシアネート濃度を青で、TVOCを赤でグラフにしたものです。

 

縦軸は検出濃度で、対数目盛で、0.01ppbから100ppbをやや超えるところまでです。通りでは、車通りが少ない通りばかりでなく自動車交通が多くてもイソシアネートはなく、TVOCは差が多いですが平均100ppb以下でした。

 

 工場では小さい方ではイソシアネートがなくて、大きい方の化学工場とタイヤ修理工場とごみ処理場付近では1ppb近くまでのイソシアネートがありました。TVOCも100ppbを超えました。

 

 香料がにおう住宅地では、イソシアネートは最高濃度で1ppbを超え、コインランドリー風下でも1ppb近い2番目にイソシアネートが高濃度でした。TVOCは10ppb以下で大通り平均と同じでした。匂いまたは工場風下になるところもある住宅地平均では、やや低い濃度ながらイソシアネートがそうとうな濃度で、TVOCも大通り平均寄りを超えました。

 

 畑道では、TVOCは最も低い濃度でしたが、場所によってはイソシアネートがありました。

 家を出てから守谷駅でつくばエクスプレス普通車に乗り御徒町駅を出るまでと、帰りに御徒町から同じつくばエクスプレスで帰宅するまで、イソシアネートを測り続けました。

 

 赤い点線で示したACGIHのトルエンジイソシアネートの職場環境勤務時間平均TLVを、電車中では超えることが少なくありませんでした。

 イソシアネートは、密集した住宅地や洗濯施設周辺、電車中、等で多く、以前とは違って、大通りでは交通量の多さには関係なくイソシアネートは零でした。大通りの例外として、化学工場の塀際ではイソシアネートが高濃度でした。

 

 揮発性有機物の合計量TVOCは、イソシアネートの存在およびイソシアネートの濃度とは関係なく、種類の異なるイソシアネート発生源を示唆しているのかと思われます。しかし、密集住宅地や洗濯施設に関連したイソシアネート高濃度から、柔軟剤香料マイクロカプセルの影響が強いことも推定されます。

 柔軟剤でイソシアネートの発生、再現性良く発生します。標準濃度で選択モデルの処理 1日放置した次の日に周辺空気汚染を分析。袋の口を開けた時、2.8ppb。20分後に濃度が検出限界0.4ppb近くまで下がったので袋を振ったら2ppbになった。8分後に下がったのでまた振ったら2ppbになった。5分後に下がったので10分後に袋の外から揉んだが、もう1.3ppbにしかならなかった。1分後に下がったが、13分後に霧を吹き付けてからドライヤーの熱風で霧を吹きつけてドライヤーで体温程度に温めたら最も高い6ppbまで周囲イソシアネートが観測された。5分後に下がったので、揉んだが出ない。温めたが発生せずそこに霧を吹いたら2.5ppb迄発生しました。

 

 香料マイクロカプセルが付着した布からは乾いてもイソシアネートが周囲を汚す。発生しなくなっても、振り動かしたり揉んだりするとまだ出てきました。動かしても出なくなってからも、人肌程度に温めて湿り気を与えると多量にイソシアネートが周囲を汚しました。

 同様な測り方で、新品の運動靴を展示しておくと胸が苦しくなったと靴屋さんからの依頼で、輸入した運動靴からのイソシアネ-トを分析した時には、このように0.6ppbの周囲イソシアネート濃度が観察されました。2週間ほどで20℃ではイソシアネートが検出されなくなった後でも、25℃に加熱すると、イソシアネートが周囲から明瞭に検出されました。(放散速度の表を空き場所に記入)

 これまで述べた分析調査などによって、全部ではないけれども広範な地域環境に、有害アレルギー化合物イソシアネートによる環境汚染が広がっていることが確かめられました。イソシアネートはごく薄くても喘息や中枢神経、血管収縮、多くの物質に過敏性などを発症しやすいアレルギー性化合物として知られています。その長期毒性指針値RfCおよび職場環境平均許容濃度TLVと瞬間許容濃度はそれぞれ、0.01ppb、1ppb、5ppbと、他の化合物に比べて特段に低い濃度で注意されていますが、私達のこの分析調査で得られたその濃度は外の空気で1ppbを超え、製品周辺では10ppbを超える時もあるなど、見過ごすことが出来ない高濃度汚染で、実際にその影響が推定される患者の例も少なくないことが明らかになりました。早急に、権威ある広範な分析調査と疫学調査が必要だと提言させていただき、お力添えをお願いいたします。